Tactic
「南木せんっ……」


声をあげようとした私の口を、慌てて塞ぐ南木先輩。


「しーっ!!若宮、なんでまだいるんだよ?」


先輩は私に合わせ、しゃがむと、声をひそめそう言った。


「だって、智也のこと心配だし……」


先輩は溜め息を一つはくと、私の掌の中に自転車の鍵をそっと置いた。


「チャリ、そこの公園の入り口に置いてある。何かあったら、若宮はそれですぐに逃げろ」


先輩はそう言うと、浜辺を見据えた。

真剣な眼差しと、逞しさをも感じさせる背中が、私の鼓動を掻き立てる。

が、ハッと我にかえり、かぶりを振る。


智也が大変なときに、私ってば先輩にドキドキして…最低だ。


先輩に託された、自転車の鍵をポケットにしまうと、私は先程とは打って変わった表情で前を見据えた。
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