ショート シチュエーション{ Lovers Season }

Scene.1(彼女の水平線)




『なぁ、また遠出でも
しようか?』

両手で持ったコーヒーの
カップに口をつけたまま

彼女が僅かにコクンと頷く‥

長い睫毛の目元だけで
上目使いに此方を見る‥

理由なんかイチイチ
憶えちゃいない‥多分

とてもくだらない事で
喧嘩した俺たちは、

一時間ほど前から
口をきく事を辞めている‥

この状況に辛くなるのは
いつも俺の方で、
適当な理由を探しては

彼女が笑う口実を
見つけ出すことに
躍起になっている‥


彼女は海辺の
ドライブが好きだ。

海の向こうの水平線を
見ると、

心だけが地球の裏側まで
到達している様な気分になり、

一つ深呼吸すると
水面を渡る鳥になった様な
気持になるそうだ‥

俺にはさっぱり解らないけど

それで彼女の気持が
晴れるなら‥

『よし!決まり!
じゃあ海を見に行こう!
決まりだなっ♪』

こんな俺の言葉に彼女は
再び視線を落とし、

不機嫌な顔になる‥

彼女の言い分はこうだ。

俺がはしゃぎ過ぎるから‥

ムードが無い‥

まるで子供の遠足みたい‥

だそうだ!

『じゃ、
どうすりゃいいんだよ!』

と、キレる俺‥


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