昭和お笑い暗黒史────戦艦「大阪」解体大作戦


その計画書が何を示しているのか、忠通は即座に理解した。

つまり、出来るはずもない無理難題をふっかけて、断れば国家総動員法に対する反逆とみなし、吉本を潰す……。子どもでも分かるシナリオだろう。

────では、どうするか。

簡単である。本当に、造ってしまえば良いのだ。

そして、その為の準備は、着々と進みつつあった。




忠通は自室の本棚の裏のボタンを押した。すると本棚が横にスライドし、秘密通路への入り口が姿を現す。

エレベーターで地下に降り、さらに動く歩道で10分ほど運ばれた先には、地下とは思えないほどの広々とした空間があった。

そして、その空間の中央には、黒々とした巨大な艦船が横たわっていた。まだ建造中と思しき巨艦の周りでは、作業員たちが忙しく走り回っている。

忠通は作業員たちに軽く会釈しながら、巨艦の舳先に組まれた建設作業用の櫓に登っていった。

ほぼ櫓の頂上に近い位置。舷側に、白い塗料で船の名前が記されている。

忠通は、その一文字一文字を指でなぞり、声に出して読んでみた。今までに、それをもう何度繰り返したか分からない。



「お・お・さ・か────。」



人知れず、忠通は微笑んでいた。吉本興業を背負うという運命を抱いたこの艦に、これ以上相応しい名があっただろうか。

彼は櫓を登りきり、船の甲板に立った。そして、舳先から船尾に向かってゆっくりと歩き出す。




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