しなやかな腕の祈り
お母さんの舞台と、あたしの舞台

舞台の決定

日本に帰ってきて、半年以上が過ぎた。


毎日は変わらない速度で過ぎていき
仕事とフラメンコと、啓太との時間が代わる代わるに訪れる。


季節はいつの間にか冬になっていて
あたしは21歳の誕生日も迎えた。



お母さんはドイツやイギリスで公演を重ねていて、月に一回連絡があるかないかくらいだ。
あたしから連絡しても繋がらない事の方が多かった。




「そういえば、劇団の舞台
決まったの多嘉穂聞いたか???」



今日は日曜日、仕事は休みで啓太と遊びに出てきていた。


『舞台が決まった』との啓太の衝撃的発言に
あたしは食べていたエビドリアを喉に詰まらせた。



「えぇ!?
聞いてないよ…いつ???
誰から聞いたんよ」

「いや、俺も盗み聞きやから
ハッキリした事は分からんけど
美佳さんたちが話してるの聞いたんさな」



美佳さんは劇団専門の事務員で、自身も啓太と同じ
スパニッシュギターの演奏者だ。



「多分次の練習で公開されるんやろうけど」



啓太は美佳さんと合わない。

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