36.8℃の微熱。
 
「はぁ・・・・」とため息の先生。

先生の言うことは分からなくもないよ、あたしだって。

でも、ダメなものはダメなんだから仕方がないじゃないのさ。


「あのね、江田ちゃん」

「なんですか」


先生は胸ポケットからタバコと携帯灰皿を取り出し、ベランダに出て背中を柵に預けた。

そして「秘密ね」と人差し指を口の前に持ってきてから、ライターで火をつけた。

開いた窓からはサワサワと春の夜風が吹き込み、タバコの煙をゆっくりと右に流している。


「好きなもの、嫌いなものは人それぞれだから、無理に好きになれとは言わないけどさ」

「・・・・」

「嫌いなら嫌いなりに努力してみたらどうかな。意外と好きになったりするもんだよ」

「そうでしょうか」


分からないや。

嫌いなりに努力・・・・はしているつもり。それもまだ足りないの?


「じゃあ、江田ちゃんはどうして数学が嫌いなわけ? 理由は?」

「理由・・・・ですか」


あたしが数学を嫌いな理由。

それは───・・。






 

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