蝉時雨を追いかけて
 田端が「俺っちたちが出てれば勝ってたのにな」と言っているのが聞こえた。

たしかにその通りだろう。おれたちよりも、やつらの方がうまかったのだから。


 くやしい。


 自分でもよくわからないけれど、涙が出た。オレンジ色に染まった空が、まぶしかった。

周りの音が、だんだん聞こえなくなる。セミの鳴き声だけが、耳についた。

ふと、セミの生き方を思った。

セミは、長いものでは17年も幼虫として土の中で育ち、成虫になってからは1ヶ月程度で死んでしまう。

長い間土の中でひっそり力を蓄えていても、輝けるのはほんの一瞬なのだ。

拓馬に勝つことをあきらめ、いままで力を蓄えていなかったおれは、一瞬でも輝くことができない。

それでもおれは、生きている。

これから先に、まだ輝けるときがあるのか、いまのおれにはわからない。

だが、生きていれば、そのチャンスはきっとある。

そう信じていないと、壊れてしまいそうなのだ。
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