花が咲く頃にいた君と

魔の手

雨が降りしきる街、傘もささずに走り抜けた。


行き交う人が邪魔で、何人か跳ね退けた。



行きたい場所なんてなくて

ただ“逃げたい”って衝動だけで走った。




逃げたって、何したって、あたしが“冬城結女”であることは変わり無いのに。


あたしは走ってる、全てを振り払うみたいに。




何でかな?


ただ東向日を好きになっただけ。


けどそれさえ、仕組まれたことの様に思う。




もう何を信じたらいいか解らない。


戻りたい。






十夜、
下宮比さん






何で、何で、あたしを捨てたの…?




どの道をどう走ったのかは解らない。


けど気付いたら、見慣れた繁華街の大通りを歩いていた。


まだまだ心は走りたいらしいが、身体がいうことをきかないのだ。




まだまだそんな季節でも無いのに、吐き出した息は熱くて白く色付きそう。



水に濡れた制服は重く肌に張り付いた。




次の瞬間、膝からカクッとその場に、しゃがみこんでいた。



力が抜けて、入れようとしても入らない。




どうやらもう身体は限界らしい。



あたしは大人しくびちゃびちゃの地面に座り込み、町行く人の視線を集めた。



けど今はそんなことどうだっていい。



あたしは多分“あの頃の瞳”で、虚ろに雨が降り頻る地面を見つめた。



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