花が咲く頃にいた君と

今まで another story

気持ちが焦っていたんだ。


“お金が必要なんだ”


誰も居ない廊下。


終業のチャイムが遠くで鳴った。



それと同時、握った拳、壁に打ち付けた。



「くそっ!」



作った“僕”が剥がれ落ちる。


素の“俺”が顔を覗かせる。



打ち付けた拳、ジンジンと痺れる。


今はその痛みだけでは足りない。



泣かせた。



足元に落ちた水滴
彼女の涙。



何で、あんなこと言ってしまったんだろう。


後悔先に立たず。




俺は彼女が思ってるほど

優しい
柔らかい
温かい


人間じゃない。



嘘でも良かった。
彼女を傍に置いておくために

“スキ”と口にしていれば良かった。



もう時間に有余はないはずだ。


そしてまた堂々巡りを繰り返す。

噛み締めた奥歯
眉間にシワが寄る。



「ヤッホー、元気かい?

ひがしむこう きさら君」



堂々巡りの思考に終止符が打たれた。

こんな時にまるで空気を読まない。


「つとむ…」

「いい様だな、きさら」


いや、わざとだ。

俺を嘲りに来たらしい、“柊 努”



「“あいつ”は俺等が“助ける”」

「どうやってだよ…」

「今さらなんだよ?“10年もほったらかし”にしてたくせに」

「ちがっ!俺は!」

「言い訳かよ!鬱陶しい!!“あいつ”はもうお前の“妹”じゃねぇ!!」

「違う!“あいつ”は今でも俺の!“妹”だ!!」



そう“妹”なんだよ。



麦わら帽子の良く似合う女の子。



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