花が咲く頃にいた君と
俺の“兄”と名乗る男性は、彼の方へ振り返り、そのフレームレスの眼鏡を押し上げた。



「義父さん、遺産のことですが」

『“孫”を連れてきた方に、全てやる』

「わかりました」


男性は彼に一礼して、病室を出て行った。



男性が俺の横を通り過ぎていくのに、ハッと我に返り、弾かれる様に病室を飛び出した。




バン!と激しい音を立てて、病室の扉が開く。


廊下を歩いていた看護師や患者さんは一様に、驚いていたが、男性は素知らぬ感じで廊下を歩いていた。



「待って下さい!」



俺は男性の名前を知らない。


とにかく呼び止めるのに、必死で大きな声で男性を追った。



ちょっと走って、彼の肩を掴んだ。



「何だ」


フレームレスの眼鏡から覗く瞳は、本当に迷惑そうで、俺は掴んだ手を直ぐ様離した。



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