セピア
 取り敢(あ)えずまずは見ず知らずの人が救急車を呼んでくれたので、今度は自分で警察に電話をしようと左上のポケットに入れていたケータイを取り出した。指は自然に硬直してしまい中々思うようには番号を押す事が出来なかった。それでもゆっくりながら峻甫は警察に連絡をするために110の番号を押した。

 5分程で救急車が来て倒れているその女性を乗せた。
そして救急隊員はすぐさま峻甫に名前と住所を聞いてそれを手帳に控えた。

「警察には連絡をしましたか?」
 とその幾分痩(や)せ気味の長身の男が峻甫に聞いた。

「はい。しました」
 と峻甫が答えると

「そうですか。では間もなくパトカーが到着するでしょう。我々はこのまま病院に直行します。追って警察の方からこの方の詳しい連絡が行くと思いますのでその折には宜しくお願いします」
 と軽く会釈をするとその男は救急車に乗り込みけたたましくサイレンを鳴らし走り去った。丁度それと入れ替わりに今度はパトカーが到着した。

 峻甫はこれから警察官に事故の事情聴取をされるのだ。
< 10 / 53 >

この作品をシェア

pagetop