セピア
 泰造は黙って娘の肩に手を置き
「大丈夫だ。絶対に花梨は助かる。死んだお前の母さんがきっと守ってくれるさ」
  と言うと泰造はヘナヘナと長椅子にへたり込んだ。多分家族皆の顔を見て緊張感が抜けたのだろう。

  それまで無言だった孫の啓太に
「曾おじいちゃん大丈夫?」
 と声をかけられて、

「ああ啓太か。わしは大丈夫だよ。それよりも大変な事になってしまったね」
 と泰造は言った。

 家族の誰もが突然に襲ったこの悲劇に困弊(こんぺい)していた。
そして『手術中』と言う文字は依然として赤く点(つ)いたままだった。
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