セピア
 峻甫は交通事故を起こして警察署に来たのはこれが初めての経験である。警察官の態度はどこか威圧的だった。
それはそうだろう。この僕は交通事故を起こして人を一人轢(ひ)いてしまったのだから。と漠然と峻甫は思った。

 それにしてもあの女性はどうなったのだろうか?もしもあの女性が不幸にも死んでしまったとしたならば僕は即殺人者になってしまう。峻甫は今更ながらにその罪の重さにガクゼンとした。そしてその驚怖に驚愕(きょうがく)し、自然と体全体がブルブルと小刻みに震え出した。

 とその時丁度部屋のドアをバタンと開けて若い刑事が入って来た。
そして峻甫を一瞥(いちべつ)すると静かに椅子に腰掛けた。

「さっき病院から連絡が入った。あの女性は集中治療室で手術を受けて一応手術そのものは成功したと言う事だが、依然として意識がまだ戻らないまんまなのだそうだ」
 その話を聞いて峻甫は
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