生と死
なんだか不愉快のまま、愛子とのカフェタイムを終わらせた。



「不老不死の薬って言葉知ってるよね?」

別れ際にこんな事を愛子は問い掛けてきた。



「不老不死の薬って…なんかアドベンチャー映画や漫画なんかに出てくる様な薬?」


なんとなく意識はしていないが、脳裏に存在する言葉だと朱美は思った。



「そう。空想上の薬。でもさ、そんな空想が思い付いたなんて、やっぱり人間って誰もが"老い"に逆らって生きてるんじゃない?ね、絶対そうよ。皆怖いんだわ…老いは、死に向かう準備の様だし。少しずつ、人間が枯れてく姿。」


愛子は寂しい表情で笑った。騒がし交差点を見渡し、行き交う人間を見つめながら。




「萎んだ花に同情してる場合じゃ無いわ。あたし達もいずれ同じ運命を辿るんだから。そのリミットが早いか遅いかだけ。」



最後にそう付け加えると、「またね」と交差点を渡って行った。




朱美は一人取り残されながら、今は「若い」愛子の背中を眺めた。


確かに、頭では"老い"を理解していても、実際あの背中が丸くなり、艶のある髪がパサつき、みずみずしい肌が枯れてく姿は想像を絶する。




でも、決められたルールなのだ。



動物も、植物も。




最後には枯れていき、死を迎える。



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