待っていたの
「月妃…あの娘を、俺が抱くとでも思ったか?」

一気に冷酷な、人を射殺せるような眼を向ける。


「あ…の、わたし……」

口を手で被い、数歩足後ろに下がる。


震える身体をどうにか押し止めようとして、失敗する。


「抱くと思ったか!!」

空気がビリビリと振るえる。


その努気で、城が揺れたような気がした。


「ひ…あの、その…」

なんとか言い訳を考えようとするが、見つからない言い訳。


白を切り通せばいいものを、彩はその態度で真実にしてしまった。


「聞かれた事に答えろ、月妃」

―げっき

その称号の呼び方が、こんなに怖いと感じた事はない。


「申、し訳ご…ざいません」

「ずいぶんと浅はかだな、側に置いたら俺が手を出すとでも?」

長い足を動かし近づく白夜に対して、一歩一歩逃げる彩。


彩は震えてあまり動かない足を動かす、白夜の方が速い。


(逃げなきゃ!)


そう思うが、思った所で身体は動かない。


そしてドアにぶつかる。


白夜が腕を振り上げる、殴られる事を覚悟して、目をギュッとつぶる。


―ドカァーン


痛くない頭に、何が壊れる音に恐る恐る目を開けると、ドアが半分吹っ飛んでいる。

持ち手の方なのだが、蝶番のネジは折れ曲がり、ドアは一応木が引っ付いている程度になってしまった。


「っ…」

息を飲む、少しずれていたら確実に死んでいた。


木の破片の通った証として、顔を小さな擦り傷が出来たが、痛いと思う前に白夜に引きずられる。


「っ…へ、いか…」

必死に呟いた言葉は白夜の怒りを更に煽るものだった。


黒麗には黒麗さまと呼んでいる彩が、自分には今だ陛下と呼ぶ事や、彩の才能を先に見出だした黒麗に対する嫉妬をどうにか押さえようとしていた所に、あの側使いの娘だ。


――イライラする。


彩が何を考えたかすぐに分かった、わかりたくもなかったのだが。



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