七狐幻想奇譚
青年は大袈裟にため息をつく。ズボンのポケットに手を突っ込み、黒飴を桃花の前に差し出す。



「らん……?」

「やる。町内のじぃちゃんとばぁちゃんがいつもくれる飴だ。だから気にすんな」

「ふふ。らんはモテモテだもんね。……ありがとう」



糸井蘭(いといらん)――高校卒業後は家業の手伝いをしながら、町の行事にも積極的に参加。ボランティアもしている。



老若男女に慕われている人気ものだ。彼のまわりは、いつも笑顔の花が咲いている。



「じゃそろそろ行くわ。学校サボんなよ」

「サボるわけないでしょう。うん、ばいばい」



狐火神社の隣にあるのが狐火高校で、歴史のある古い学校だ。神社の行事の手伝いは、昔からずっと生徒がやることになっている。どうしてかは誰も知らないが。



蘭と別れ砂利道を歩いていた時――学校へと繋がる階段から、紺碧の髪の端正な少年が降りてきた。



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