限定セカイ
 すると彼は制服の胸ポケットからぐちゃぐちゃになった煙草の箱を手荒に取り出して、1本軽く握って僕に見せた。


「この煙草は麻薬だ。それと同じじゃないのか?」


 僕は一瞬、彼が闇に見えた。まるで闇の世界で色を手探りで探しているかのような感覚。

 そして、彼はその煙草に火をつける。僕の心がだんだん要求に我慢できず燃え滾るかのように、それと連動して火は煙草を侵食していく。そして、冷たい煙草の煙が密室の教室を汚染し始める。僕の要求も心を汚染していく。

 闇が深さを増す。


 途端、僕は教室の隅から離れ、彼めがけて走り出す。そして、彼は逃げることなく僕を待つ。

 僕の手は、目は脳は、彼の右にそっと置いてある鞄をめがけていた。

 鞄をこじ開け中身をあさるのを彼の手が止めようとする。時々彼の爪が僕を傷つけたりもする。ただ、そんな些細な傷は、要求が埋めてくれた。しかし、彼が僕を突き倒した衝撃で要求が少し減る。ただ、それだけでは収まらない。ほしいものはどんな手段でも手に入れる、まるで野獣のように僕は狂っていた。目の前には闇しかないわけだから、そうなる。

 僕は彼を、自分以上に傷つけて、目的のものを見つけ出し、奪う。


「本当に麻薬にもなるだろ」


 彼は口に含んでいた煙草の煙を僕に吐きかけるようにして問いかける。


「そうみたいだ」


 僕は呼吸が整う前に教室を出て行く。出て行くと同時に彼もその密室を抜け出し僕を追う。
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