先生とあそぼ
「……これを」

そして、凛はポケットから一通の封筒を取り出し、園長先生の前に差し出した。
そこには……。

「ちょ!?凛!
お前なんで辞表なんて……!」


封筒の表に書いてあったのは、凛のきれいな字で『辞表』の二文字。

おれはそれを引っつかみ、再び凛につかみかかった。

「流架くん、これが大人の世界ですよ。
保育者とその保護者がデキているなんて、あってはいけない事です」

「でも……っ!」


それで、凛が辞めるなんて納得が出来ない。

だって、凛はこの保育園の人気者じゃん。
そんな先生が辞めちゃうなんて、誰も納得しないだろ!?

なら……。

「おれたちが保育園を辞めます」

「はぁ!?」

「そうすれば凛は辞めなくてすむでしょう?」


頭に血が上っているおれは、とにかく凛にやめて欲しくなくてそんな事を口走ってしまった。

「流架くん!?君はよくても、未有ちゃんはどうするんですか!?」

「どっか別の保育園を……」

「そんなすぐに見つかると思っているんですか?」

「どっか探せばきっと……!」

「そんな簡単なものではありません。新年度からならまだしも、こんな中途半端な時期に空きでもない限り受け入れてくれるところがあるとは思えません」


この場では諭すように話している凛も、目ではなにをバカな事言ってんだと言っている気がする。

確かに、おれの一存でそんな重大なことを決めるわけには行かない。

まして、両親が不在の時に勝手に決めるなんて出来るわけがない。


でも……。

おれは、凛には保育士をやめて欲しくない。
きっとこの保育園の誰もが思っている事だ。

そんな凛を、こんな事で辞めさせたくなんかない。

「流架くん。僕なら大丈夫です。この仕事以外にも働き口は見つけられます」

――だから、安心しろよ。
凛は笑ってそう言ったけど……。

おれには納得が……っ!


凛がおれから辞表を取り上げ、再び園長の前に差し出そうとした時――。


「待ってください!!」
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