先生の秘密

涙をこらえたまま教室へと戻った。

クラスメイトは泣いたり笑ったりしていて、各々最後のホームルームに思いを馳せている。

私は誰とも喋らず席に着いた。

窓の外に目をやると、早咲きの桜がきれいに咲いているのが見えた。

そういえば淳一と再会したあの日は桜がキレイだったなぁ。

あの桜の種類は何だろう。

勝手にソメイヨシノだと思っているけれど、確信はない。

ここからはよく見えないけれど、そろそろつぼみが膨らんでいるのだろうか。

4月になったら、また美しく咲き誇ってほしい。

私は目に溜まった涙をハンカチに吸わせ、気分を落ち着かせて立ち上がる。

今は感傷に浸るより、クラスメイトとの別れを惜しみたい。

「また会おうね」

「絶対同窓会やろうね」

しばらくして担任が教室に入ってきた。

自然と全員が席に着く。

教室は一気に静かになった。

最後のホームルームのはじまりだ。

「みんな、卒業おめでとう」

卒業式で何度も聞いた言葉だな、お世話になった担任の先生の声で聞くと、心の奥深くに沁みる。

「3年になって11ヶ月。早いな」

つまり、淳一と再会してから11ヶ月。

「11ヶ月前に想像してた高校3年と実際の高校3年、比べてみてどうだ? 楽しかったか? それとも苦しかった?」

私は苦しかったと答えるのが正解かもしれない。

もちろん楽しくもあったけれど、この18年の人生で、こんなに切ない思いをしながら学園生活を送ったことはなかった。
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