気付けば溺愛
「あいつがその片思いの相手なら、見合いの相手が俺で良かったな」

「え?」

耳元でささやかれる声は、笑いを含んだ優しい吐息とともに。

「もともと、君の叔母さんの顔をたてるための見合いだから。明日にでも断りの連絡しとくわ」

「あ、はい…すみません」

「じゃ、面倒な勘違いに巻き込まれるの嫌だからこれで」

私の背中をぽんぽんと叩いて、エレベーターに向かう……えっと。

「あの!」

離れていく背中に声をかけると、歩くペースを落として振り返り、

「野崎健吾。見合い相手の名前くらい覚えておけよ。からかって悪かったな。花凜ちゃん」

そう言って、エレベーターの中に紛れて消えて行った。

野崎健吾さんか。

…ちょっといい男だったな。
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