恋めぐり
彼女の歌には人を引き付けるものがあった。

同じボーカリストとして嫉妬を覚えた。

自分の前世なのに。

彼女の生まれ変わりだという私は、あんなに音域は広くないし、歌唱力も彼女の半分にも満たない気がする。

「なんだい、もう終わりかい」

一曲歌うと、彼女はステージから下りて、カウンターの端に腰をかけた。

足を組むと、真っ赤なベルベットのドレスのスリットから真っ白な足が見えた。

店主らしき初老の女性がオウリの前にグラスを置いた。

「興が乗らない。ねぇ、今日はやけに人がいるね。こんな寂れた酒場に」

オウリは店を見回して呟いた。

中央の席には、身なりの良い男達がキレイに着飾った女の人達を侍らせて酒を煽っていた。

「寂れたは余計だよ。政府の高官さ」
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