ばうんてぃ☆はうんど・vol.2~鷹の目の向こうに《改訂版》
尋ねる俺には答えず、無言でディルクはバイクを降りる。俺も続いて降りた。エンジンはかけたままだ。
ディルクは樹の周りをぐるりと回り、地面を念入りに調べ、次に樹の幹と枝を調べ始めた。
少し登って枝を見ていたディルクに、
「どうだ?」
「どうやらここで間違いないようだ。見ろ」
言って小さい枝を一本折り、俺に放り投げてきた。
「なんだ?」
バイクのヘッドライトに照らして、枝と葉を見る。
「……焦げてんな」
「ああ。それと、かすかな硝煙の匂い。発砲の際のものだろう」
「いや、けどこの樹は……」
俺は樹を見上げる。高さはそこそこありそうだが、そこまで太い樹じゃない。確かに人間がよじ登ることはできそうだが、枝が細く、またがったり腰かけたりすると折れちまいそうだ。
「確かに、この枝の上に乗るのは無理そうだな」
「ああ。けど、ここから撃ったのは間違いないんだろ?」
「そうだ。その葉が証拠だ。予測される弾道とも一致するしな」
「なら一体どうやったってんだ?」
ディルクは樹を見上げ一点を指し示し、
「焦げた葉と枝の位置から見て、あそこの『幹』にしがみついて撃ったのだろう」
「幹にしがみついて?!」
俺はディルクの示す先を見た。そこは幹はしっかりしているが、枝は全て細い。
つまりこういうことだ。王のやつは左手で幹にしがみつき、足を引っ掛け、右腕一本の片手撃ちで狙撃したってわけだ。
しかもだ。ここからホテルの方角を見る限り――
「全然見えねえぞ……」
他の木々に隠れて、全くと言って良いほど狙えない。
「いや、そうでもなさそうだ。樹に登り、これを使ってホテルの方を見てみろ」
ディルクはスコープを俺に手渡してきた。俺は言われるまま登り、スコープでホテルの方を覗く。
「どうだ?」
「……確かに見えるが、けどこいつは……」
銃で狙うというよりは、隙間を縫うといった感じだ。枝と葉と車と人の間の、小さな『鍵穴』から覗き見るような。
しかもここからの狙撃を、片手で身体を支えながら、片手で撃って当てやがったんだ。
「ホントにできんのかよ? そんなこと」
俺は樹から飛び降りながら聞いた。
「実際やってのけた。枝をバイポッド代わりにしてライフルを乗せれば、やつなら難しくはないだろう」
いつも以上に感情のない顔で答える。
「結果が全てを物語っている」
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