fanfare




その日は、梅雨が明けたばかりの、夏の始めだった。


じめじめとした空気。恐ろしく高い気温。

額にはじっとりと汗が滲み、長い前髪が肌に張り付く。

時刻はじき、ホームルームが始まる時間。つまり、まだ朝も早い。にもかかわらず、この暑さは何事だ。……俺の席は、廊下側の一番風通しのいい所にあるんだぞ、まったく。

どうやら、地球の温暖化は、予想以上に進行しているらしい。

うん。明日から早起きして、ゴミを拾おう。

……勿論、冗談だ。

俺の低血圧には定評がある。
主に、毎日フルに活用されている、壊れかけの目覚まし時計なんかから。

閑話休題。

話を現実に戻そう。まずは、現状の確認からだ。


なんてくだらないこと考えている間にも、俺は黒い下敷きをうちわ代わりにパタパタ動かしながら、暑い暑いとうわごとのように繰り返していた。

「あんまり暑い暑い言うなよ。余計暑くなる」

そんな今にもとろけそうだった俺に身をよじってまで声をかけてきたのは、前の席の、鈴木……。 いや、田中……、あ、佐藤だった気も……。

「日下だよ。んな多い名字じゃねえ」

ああ、そうそう。それそれ。

俺はうんうんと頷いた。
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