学園(吟)
女の子の速さは小学生では考えられないものだった。

でも、必死に追いかけ続けて、最終日には捕まえる事が出来た。

それは女の子が手を抜いていたという事を、俺は知っていた。

それでも、嬉しかった。

最後に捕まえるチャンスをくれた、女の子。

何となく頬が赤い。

夕日のせいだろうと、未熟な俺は思った。

その後、俺は女の子とお金を合わせて近所の駄菓子屋にあるコーラのペットボトルを購入する。

といっても、ほとんど俺の出費だ。

でも、良かった。

最終日じゃなくても、女の子のために何かが出来る事が嬉しかったのだ。

俺はコーラを飲む女の子を眺める。

すでに、半分以上は女の子の胃の中へと舞い込んだ。

しかし、半分以上飲む代わりに、ペットボトルについていたオマケを頂く。

それは、コーラのバッジだった。

別に欲しいとかは思わなかったものの、二人の思い出としてもらっておく事にした。

「時が経てば私はお前の事を忘れる。だから、お前の身代わりになる人質を寄越せ」

「人質って」

手元には、先ほど貰ったコーラのバッジが残っている。

「じゃあ、これ」

女の子に渡すと、バッジを眺める。

「これが人質か。しょっぱいな」

「だ、だって、これしかないよ」

「まあ、良い。これで、お前の事は忘れない」

「きっと、帰ってくる。それで、今度は、お婿さんになる!」

俺は、女の子との生活を夢見ていた。

「はは、大きい夢だな。だけど、お前の嫁なら、それも楽しいだろうな」

それが、幼少の頃に女の子を見た最後だった。

俺は、新天地へと旅立ったのだ。
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