Symphony V
連れて行かれた先は、少し寂れた喫茶店だった。
中に入ると、お客は1人だけのようで、少しおしゃれな感じのするおばさんが、奥のテーブルに座っていた。

「いらっしゃいませ」

カウンターで洗物をしていたマスターが出てきて、唯達に頭を下げた。

「お連れ様がお待ちです。奥のお席へどうぞ」

そういうと、マスターは入り口に吊るしてあった営業中の掛看板を、準備中に変えた。

「葵、雅子さんですね?」

村儀が声をかけると、雅子は少し表情をこわばらせながら頷いた。

「…お電話させていただきました、警視庁の村儀です。早速、お話を伺いたいのですが」

「ええ、どうぞ」

雅子は目を泳がせながら視線を下へと落とすと、じっと、目の前に置かれていたコーヒーカップを見つめた。

「…お母さん」

唯が声をかけると、雅子は体を硬直させた。

「…本当に、そうなんですか?」

唯が聞くと、雅子はぽたぽたと涙をこぼした。
短い沈黙が、あたりを包む。

「東峰唯さんね?」

雅子は持っていたハンカチで涙を拭いながら顔を上げた。唯の顔をじっと見つめて聞く。
唯は何も言わず、ただ頷いた。

「そう…今、おいくつ?」

「15に、なりました」

唯が答えると、雅子はやわらかく微笑んだ。

「もう、あれから10年も経つのね」

雅子は何かを思い出すように、はぁ、と息を吸った。
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