Symphony V
どんなに謝っても、到底許されることではないわ。
東峰夫妻にも、ひどく責められた。

そんな時、間に入って仲裁してくれたのが、高遠稜輔さんだった。
稜輔さんは、東峰夫妻を納得させるため、私達夫婦と、東峰夫妻の間で、1つの条件を提示してきたの。

あかねちゃんの亡くなった日に産まれた、ゆいを養女に出すこと。

もちろん、私達夫婦は断った。だけど、東峰夫妻の大切な娘さんを亡くならせてしまったのは豊であることも事実。

そこで、高遠は、養女に出す代わり、あかねちゃんが亡くなったのと同じ年齢になるまでは、唯を私達の手元で育てさせることを条件として提示した。


正直、そんな条件をのむつもりなんて毛頭なかった。
だけど、その条件をのむのであれば、夫を訴えることはしないという東峰夫妻の言葉に、夫は自分の保身を考えて、承諾してしまった。

その日から、私は何とか唯を手放さなくていい方法がないかと必死で考えた。
そして、その結果。
もう一人の少女を養女として招きいれ、約束の日、東峰夫妻に引き渡すことを思いついた。
そうして、私は、まゆを養女に迎え入れた。


人として、恥ずべき行為だとはわかっていた。
けれど、どうしても。私は実の娘を手放すことなどできなかった。


数年の後、とうとう約束の日がやってきた。
唯が産まれてから、あかねちゃんが亡くなってから、ちょうど5年が経った日だった。

1人の男性が、唯を迎えに来た。
もちろん、私は何食わぬ顔で、"娘"を渡す約束だったと言って、まゆを引き渡そうとした。
どこかできっと、まゆは感じ取っていたんでしょうね。
引き渡すとき、まゆが私達をなじったの。必死で嫌だと訴えながらね。

それをみた唯は、私が代わりに行く、と、そう申し出た。
もちろん私は必死で止めた。
でも、そうすればするほど、まゆが目に涙を浮かべて怒り、唯に罵声を浴びせた。


唯は嫌な顔ひとつせず、男に私が行くといって、家を去っていったわ。
< 196 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop