Symphony V
今でも思い出す。
初めてキアリーの歌声を聴いて、唯は身震いした。

歌詞は英語だし、意味なんてなにもわからなかったけど。

それでも、何かが唯の心を奪っていった。

「そのまま夢中でキアリーのアルバムの中の曲を全部聞いたの。何度も、何度も。気づけばすっかりハマッちゃって」

唯は苦笑いを浮かべながら続けた。

「で、思ったの。お父さんに謝らなくちゃって。お母さんにもちゃんと謝らなきゃって」

ぽりぽりと頭をかきながら続ける。

「すっごい勇気がいるんだよね。自分から謝るのって。でも、部屋でうじうじしててもしょうがないし、何より、お父さんに早く伝えたかったんだよね」

じっと、車のオーディオを見つめた。

「何を伝えたかったんだい?」

キアリーに聞かれて、少し照れ笑いをしながら唯が言う。

「お父さんの誕生日プレゼント、とっても良かったよって」


久しぶりに両親に涙を見せた。
謝ることがこんなに勇気が必要だなんて思わなかった。

今までなんとなく、親子喧嘩をしても、気づけばいつも通りに話したりしてて。
ちゃんとごめんなさいって言うことは少なくなってて。

小さい頃は素直にいえてた言葉が、時を重ねるたびに言えなくなって。

その分、頑固になって。
素直じゃなくなって。

必死で手が震えるのをぎゅっと握り締めて、ばれないように必死で隠して。

ごめんなさいって伝えたら。


お父さんとお母さんが、優しく笑ってくれた。
お父さんとお母さんも、ごめんねって。


涙を流して、わんわん泣いて。
お母さんにしがみついて泣いた。

何度も何度も繰り返し謝る私の頭を、お父さんが優しく撫でてくれた。
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