Symphony V
部屋に入ると、最初に嗅いだような、独特の鉄っぽい臭いがした。

ゆっくりと両親の側に近づく。

近くにいた、鑑識の人たちは、驚いたような顔をする。

唯は、2人の遺体の側に立つとすっと屈み込んだ。

「…両親の死因は、特定できたんでしょうか」

誰に言うでもなく、唯が聞くと、近くにいた1人が答えた。

「どちらも、現場を見る限りでは鋭利な何かで刺されたことによる、出血死だと思われます」

辺りに飛び散っている血の跡が、それを強く裏付けているようだった。

「…動機は」

「それは…」

口ごもる鑑識員。が、理由が思い当たらず口ごもっているのではなく、言いにくいことだから口ごもっているようだった。

「…現在、他殺と、無理心中の線で捜査中です」

通してくれたのとは、別の警察官が答えた。

唯はぴくりと片方の眉を上げた。


「…無理心中なんかじゃない」

唯が呟くと、警官は小さくため息をついた。

「お嬢さん、我々はあらゆる可能性から調査を」

「無理心中なんかじゃない」

遮るように、力強く唯は言った。警官は少しムッとした表情を浮かべる。

「なぜ、そう言いきれるんです」

「…ここ」

唯は父親の襟足の部分を見せた。




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