ただ、声をあげよう。
ただ、声をあげよう。

じいちゃん

「台風が来とるねえ」

バスを降りたとたん、生ぬるい湿った風が頬に触れた。

家を出てから3時間、タクシーと新幹線と私鉄を乗り継ぎ、


さらにバスに乗ってやっとここまでたどり着いた。

あたりを見渡す。


―ここからどうやっていくんだっけ?-


田んぼの真ん中にぽつねんとバス停が立ってはいたけど、周りに人家らしきものは見当たらない。


あたしはいつものくせでタクシーを捜した。


―ないかー


バスは重々しくエアブレーキの音を立ててゆっくりと動き出す。


ブシュッとひとつ音を吐き出して、ガソリンくさい息を残しワンマンバスはスピードを上げていった。


このバス停で降りたのはあたしひとりきりだ。


たった今、降りたばかりのバス停は風雨に晒されて支柱は赤茶けて錆びていたし、
申し訳程度においてあったベンチには、背もたれの部分に「ケロヨン」とロゴが入っていたらしいけど、すっかり剥がれてうかつにもたれでもしようものならあっさり崩壊しそうだ。
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