宝石色の幻想


岩塚の声に感情はのっていなかった。淡々と事実だけを告げていた。

恐ろしい。けれど予想していた悲劇であった。


それなのに、それは柏木の喉はいとも簡単に潰してしまった。発声も、呼吸も、ままならない。

岩塚の冗談でもなく、虚言でもなく、それは事実なのだ。柏木は確信していた。それを止める術は自分だって持っていたはずなのに。



力のなくなった手のひらから、青い携帯電話がするりと抜け落ちた。派手な音を立てて。

今はリビングに居る妻を気遣う余裕など、この男にはなかった。とにかく、岩塚に会わなければならない。それだけが柏木の脳内を支配していた。



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