雨の雫

act8 愛してる

夏休みも終わりに近づいた頃、
家族旅行から帰ってきた理未子から連絡が入った。

「恵司。帰ってきたよー。逢いたいよ」
電話口の彼女の声は弾んで、
どことなく甘えた口調だ

「おかえり。今から迎えに行くからいつもの場所で待ってて」
そう言って僕は受話器を置いた。


商店街を抜けると郵便ポストが見えてくる。
その傍らに彼女が立っているのが見えた。

僕が手を振ると、
それに気が付いた彼女が両手で振り替えしてきた。

小走りに駆け寄りながら

「けいじー。あいたかったー」

「お か え り」と僕。

「ただいま~」満面の笑顔を返してきた。
(これだー)


そう思った瞬間彼女の唇が目の前にあった。

「よせよ。こんなところで…」

夏の日差しの中、人影はない。

彼女は黙って笑いながら、
こんどは頬に触れた。


僕の中で何かが弾けた。


彼女の肩を自分の方へ引き寄せ、
両手で力強く抱きしめた。

「いたいよ~恵司。」

「人が見てるよ…」

「構わないよ」

「だって…」
彼女の体から力が抜けるのが解った。

「恵司、愛してるよ…」

「逢いたかった。」

「オレもあ・い・し・て・る」


蝉の声すら聞こえなくなった。




僕は理未子からのお土産よりも
一枚の写真が欲しいとお願いした。

この一週間で、逢えないことがこんなに辛いことに初めて気づいた。

写真はその隙間を一時でも埋めてくれる。
いわば頓服薬だ。


家族の写っている写真に少しばかり嫉妬しながら
ジーンズにTシャツのラフな格好で一人きりの写真を選んだ。

「これにする」

「えーこれ?」

「なんか変だよ」

「いや、髪型は可愛いし、すごくいい。」

「じゃぁ、いいけど」
「捨てないでね」そう言って笑った。
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