雨の雫

act3 心臓が止まった

部活が終わりいつものように孝の自転車の後ろにまたがった。
「寄るだろ?」孝が尋ねる
アワビ商店へ寄るのは日課だったが、その日はあまりお腹が空いていなかったこともあり断った。

「悪りぃ。今日は腹へってないや」

「そうか。」
「送っては行かないぞ」

「あぁ、アワビからは歩いていくよ」

「ばーか!そんなに謙虚な奴、途中で降ろせるかよ」
そう言いながらも孝は、駅近くの国道沿いまで持ち前の安定感で乗せていってくれた。

「あ、ここから歩くよ」

国道を越えると商店街のため道幅が極端に狭くなり、夕方の買い物客でごった返していた。

「じゃ、またあしたな」

そう言うと軽々と自転車を翻し元来た夜道に消えていった。

「サンキュー」 小さな声で僕は礼を言った。



薄暗くなった駅の階段を一段抜かしで駆け上がると、すぐ左が改札になっている。
定期券をバックから取り出し改札に入ろうとすると、誰かが声を掛けてきた。

「お疲れー!」

満面の笑みでそこに立っていたのは滝井だった。

「あれっ!偶然だね」
「誰か待ってるの?」

「うん。」
「でも、いいや、米君も帰るんでしょ?」

「あぁ」

「じゃぁ、一緒に帰ろっと」

「え?友達に悪いじゃん」

「いいの、いいの、明日謝っとくから」

「しらないぞ・・・」

「いこ、いこ」

強引に彼女は、僕の腕を引っ張りながら改札を先に抜けた。

ホームに下りると長椅子が目に入った。
電車が来るのを待ちながら、彼女はまた喋り出した。

僕の耳には彼女の声は届いていない。
孝のい言った言葉が耳から離れない。
(滝井に言わなくっちゃ)
(謝らなくっちゃ)
(どうしよう)
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