【CORORS①】虹色の扉

 メルセデス――

 初めて耳にした新たな名前。

 何処かで聞いたことのあるような――

 それでいて、とっても大事な名前だった気がする。

 ――ダメだ

 考えようとすると頭痛が走る。


   キィ―

 部屋の中央の扉が静かに開かれる。

 俺より10歳くらい歳上なのか? 貫禄のある人がソフィアと一緒に入ってきた。


 「お目覚めになられたようで何より。私はメルセデスと申す。以後お見知りを」

 「メルセデス殿、すまぬ。今私は――」

 「聞いておる。今はゆっくり休むがいい」

 「かたじけない」

 「メルセデス様は婚約者(フィアンセ)ですの」


 ソフィアは、淡々とした口調で語った。

 「式の日取りは決まっておられるのか?」

 「いや、私たちはいずれ生涯を共にする事を約束したまでの事。そのような事は、追々考えていくつもりだ」


 答えたのはメルセデス殿だった。

 彼の言葉に何故か安心をした自分がいる。


 「ソフィア殿、幸せなんだな」

 彼女は、返事をしない代わりに曖昧な笑みを一つ浮かべた。

 幸せではないのか?

 こんなにも紳士的な方の花嫁になれるというのに?

 胸がチクチク痛む

 彼の本意を知るのはもう少し先の事


         - 5 -



< 90 / 191 >

この作品をシェア

pagetop