―ユージェニクス―
「ともかく……主犯の一人が言っているんだ。重要な言い分だと思うが」

紀一は捜査官を見据えて低く言う。
そんな彼らに捜査官は分からない様眉を顰めた。

「……考慮する。早く屋敷から出るんだな」

ここでは全員確保する予定なのだ。何がどうであれ屋敷を空にさせなければならない。
その後の処理は警察署がなんとかするだろう。


「ほら、先に行け」

紀一と峯らを先へ促す。

「……」

茉梨亜は擦れ違い様の紀一と目が合った。

黒い瞳。

それは自分を必要としてくれたもの。

それでも、茉梨亜は彼を同情せずに見据える。

必要としてくれた。
しかし、扱いは“母”という“物体”としてだった事を茉梨亜は感じていた。

……その扱いしか紀一が知らなかった事も分かっている。

そういう人だった。

きっと紀一の育った環境が茉梨亜と違い過ぎたのだろう。

ただそれだけ。


紀一は何も言わず、茉梨亜から目を逸らして去っていく。


「…ちょっと紀一」

峯はそんな彼がなんとなくいたたまれなくて声を掛けた。

「いいの?何も言わなくて」
「……」

紀一はすたすたと歩いて行くので峯は追う羽目になる。

「…俺が何を言っても意味はない。茉梨亜はやはり一度も、俺をまともに相手にしなかった」
「あら分かってるじゃなぁい」
「…」

意地悪く楽しそうな峯を紀一はむ、とだけ見た。

「あの子、骨抜きだったから全てを受け入れてたのよ。ここではそれしかなかったから……黒川様もアンタも、それを都合の良い様に使っただけ」

「……俺は分からない。ただ必要だったのに、じゃあ他にどう求めれば良かったんだ」

端正な顔を歪める。
知らないし、分からない。
父もそうしていたし、そこから学んだつもりだったのに。


「…アンタ達は根本から間違ってんのよ」

皮肉的に峯は言ってのけた。

「もっと人を大切にしなきゃ」

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