―ユージェニクス―

「……知ってるんだ」

「通りすがりの警備員が喋ってたからな」


無言で目線だけが交差する。


だが塔藤を咎める理由にはならない。


「……俺、サラリーマンだからね」


「別に怒ってねぇよ。おまえじゃなくても誰かが気付いて通報しただろ」


結局、塔藤は一研究員で、他の研究員と行動は変わらない。

ただ侵入者が……

「管原の友達だったから、ね」


「だから捕まえないで逃がしたんだろ」

管原に言われ、普段穏やかな塔藤の顔はすっと大人の笑みになった。


「危険を侵してまで侵入してきたんだ。それ程の目的なら達成させてあげたいとも思うよ。でも」

少しだけ言葉を切る。


「研究員に見つかったらただじゃ済まない。上層部の人間になら尚更だ」


「……おまえ、だから先に通報したのか」

管原は目を見開く。

「侵入を大事(おおごと)にしちゃえば上層部も内密処理には出来ないでしょ。警備員にも侵入者の顔が伝われば、捕まえられても非公式の被験者候補にはされないからね」



「……」


何と言うか、管原はぽかんと塔藤を見下ろす。

「塔藤……よくまぁ頭が回るな、俺ちょっと脱帽デス」

「そんな事ないよ。後は捕まるか捕まらないか、目的を達成出来るかは侵入者君次第しだし」

あははと既に我関せずな笑みを浮かべる。


「で、管原はどうするの?」

逆に見上げられ、無意識に真顔になる。

自分も塔藤と変わらないただのしがない研究員だ。

今の現状は……思わしくない。


「さっきも言っただろ。俺は……」

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