―ユージェニクス―

―12―

盟代の後ろに控えていた警備員達が盟代から茉梨亜を引き継ぎ、そして動かないでいる咲眞も捕らえる。

「さ、咲眞……ごめん」

「仕方ないよ。僕だって色々ミスってるし」



……その彼らの様子をじっと見つめる男……先程から一言も発していなかった折笠は、ふと何かを思い出した様に作業着の下に隠れていた腕時計を見やった。

「……」

時間を確認しても、その顔色にやはり変化は見られない。
だが。



「あの……少し宜しいですか?」

声を掛ける。

それは折笠が目の前の対象達に向かって発したもの。

その存在に今気が付いたのか、盟代はサングラスの中で目を細めた。

「なんだおまえは。作業員か?持ち場に戻れ」

低く鋭い声がそう命令しても構わず、折笠はつかつかと盟代や咲眞達の方へ歩み寄って来る。

「…折笠さん?」

咲眞が訝しげに呟いた。
折笠の動向は最初から掴めた事はなかったが、今更に理解が出来かねる。
自分達に関わっても意味はないのだから、さっさとこの場を立ち去るべき……


『ドゴッ』


「――へ?」

奇妙な音が聞こえた。

思わず間抜けな声を出したのは茉梨亜で、同時に彼女の手枷は解放される。

茉梨亜を捕らえていた警備員が有無もなく倒れ込んだからだ。

「っ!?」

盟代は目を見開く。
警備員が倒れた原因は紛れも無く、この作業着を羽織った男が警備員の鳩尾を殴ったから。

「貴様、何を……!!」

言われるが前に折笠は、なんと長身の盟代の横に素早く並び込み手刀を振り上げる。
まさに一瞬。
「ァグッ――」
それは盟代の首に叩き込まれた。

――信じられないと二人は見上げた目で訴える。

この体躯の盟代があっさりと昏倒してしまった。周囲の警備員も何が起こったか理解が間に合わない。
誰かが声を上げる間も与えず、

「――」

折笠は今、ここに居る全ての警備員を敵に回した。

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