―ユージェニクス―
‖出会い


日も沈んだ、紫とも橙ともとれる空の色。



そこへ影を落とす灰色の雨雲。



ぽつ ぽつ と、それは風に乗って落ちてくる。


途端にそれは雨という速度に変わり、大粒の夕立は、傘を持たない少女の頭上に容赦なく降り注いだ。




新庄茉梨亜(しんじょうまりあ)はそこに居た。




色を抜いた黄土色の髪を高い位置でツインテールにしている。

日本的な顔立ちだがかなり可愛らしく、反面、Tシャツにカーゴパンツとカジュアルな服装を身につけていた。



そんな彼女はそろそろ自宅へ戻り、軽い夕食でも作ろうかと思っていたところへ突然の夕立。
歩く足も駆け出したのだが……


「?!」


……思わず茉梨亜は立ち止まった。


ふと顔を上げた時、目の前に立ち尽くす少年を見つけたからだ。


「? ……見ない顔だなぁ、それに、変なかっこ」


廃屋が散乱した限られたこの地域では、大概が顔見知りであった。


トウキョー某所、コンクリート塀で外界と遮断された、巨大六角形の中にある民間人保護地区。
保護地区とは名ばかりの、実質スラム街となっている場所である……



そんな場所で暮らす人々にとって、犯罪や法律など知った事ではない。


茉梨亜はまたこの少年にも、疑って掛かっていた。



……それでなくともこの少年のいで立ちは奇妙だった。

白いタンクトップ、ずり落ちて肩がはだけた白いパーカー、白いズボンに白い靴。
更にはまだ少年の顔立ち背丈だというのに、彼の髪は茶色がかった白髪をしていたのだ。
自分と同じ歳程の……15か、16かそれくらいの少年だ。


「この間も変な男に絡まれたし…絶対関わらないようにしなくちゃ!」

茉梨亜はそう決心して、その少年から目を逸らした。





雨が勢いを増した。






茉梨亜は少年を避ける様に走り出す。

なるべく気に留められない様に。

雨を防ぐ様に顔を隠して。


茉梨亜が少年とすれ違った、その時。



「……君で12人目」


凄まじい雨音の中、その声ははっきりと聞こえた。




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