Bitter&Sweet



検温のため、ナースステーションから出て病室に向かう



【513 鴨居 楽】



コンコン
ドアをノックすると


「はい」


低い男性の声


「失礼します。検温に……」



病室に一歩入ると


ベッドの上、酸素マスクを付けモニターに繋がれた小さな男の子



4歳の楽くんがすやすや眠ってて


そのベッド隣

すっきりとした短髪で一重まぶたの細い目をした男性



楽くんのお父さんが週刊誌を読んでいた


「楽くん眠っちゃいましたか」


私が小声で話すと


お父さんは細い目を一層 細めて笑いうなずいた



楽くんを起こさないように
体温計を腋にはさみ


聴診器を耳にかけ
楽くんの胸にあてる


その様子を お父さんが まじまじと見てるから



聴診器をまた首にかけて

「何か?」と訊いた


「いや…あの……」


お父さんは困ったように頭を掻きながら


「ピンクで可愛い聴診器だなぁって」



「ああ、そうですね」


なんだ、私のピンクの聴診器が珍しかったのか



………ナースのほとんどはピンクなんだけどな



今日、初めて気がついたのかな




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