アオイハル
家に着くと、母が出迎えてくれた。



「聖愛、先生がお待ちよ。」



先生というのは、私にヴァイオリンを教えている人のことだ。



小さい頃に連れて行かれた発表会にすごく上手な男の子がいて、私も習いたいと言ったらしい(幼稚園の頃だからうろ覚え)のだけど…。



ちっとも上達しないから、最近はやる気が起きない。



一通りレッスンが終わる頃には、私も先生もため息しか出なかった。



音大合格者を輩出する先生だから、私のような出来の悪い生徒を教えるのは苦痛なのだろう。



だけど、高額な月謝をもらっている彼女は「やめてくれ」なんて言えないだろうし、私の方も高名な先生に教えを受けていることは父母の唯一の自慢だから「やめたい」なんて言えないでいる。



まぁ、学校の成績をとやかく言われないだけマシだろう。



何せ、私には競う相手がいないのだから。



それに比べて、兄は大変だと思う。



この葛城(カツラギ)の跡取りとして期待されているだけでなく、紫宝院(シホウイン)の御曹司とやらに常に勝たなければならないらしい。



私の家と紫宝院家は商売敵で、母とあちらの奥様も学校の先輩後輩というライバル関係にある。



成り上がりのウチと、老舗の紫宝院…。



はっきり言ってしまえば、あちらの家とは常にいがみ合っている。





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