夢みる蝶は遊飛する
その日は、ひとつの授業が終わるたびにクラスメイトたちに囲まれて、トイレにすら自由に行けないような状況だった。

東京ってどんなところなの? と、観光目的にしか訪れたことのない日本の首都に、興味津津らしい。

かの有名な忠犬ハチ公について聞かれ、それは意外に小さくて目立たないし、なおかつ人ごみにまぎれてしまうので、待ち合わせには不向きなのだと答えたら驚愕していた。

交差点の真ん中に、西郷隆盛像のようにそびえ立っているとでも思っていたのだろうか。



私にとって当たり前の事実が、こちらではまったく浸透していないことに、新鮮さを感じた。

きっと、こちらにとっての常識の中には、私にとってはまったく知らないようなものもあるのだろう。

近所付き合いひとつとっても、私には戸惑うことばかりだ。

本当に、私はここでやっていけるのだろうか。


そんなことを考えている時点で、この地に馴染む気持ちが私に芽生えていることを示していたのだろうけれど。

それを認めたくない私は、その思いを見て見ぬふりをした。

田舎だから、東京とは違うから、と、周りを蔑むことで、自分の価値を上げようとしていたのだ。

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