夢みる蝶は遊飛する

会議室を飛び出してがむしゃらに走って、階段を駆け上って、人気の無さそうなトイレに駆け込んだ。

自分の呼吸音さえ鬱陶しく感じる。



クリーム色のタイルを拳で何度も叩いた。

けれど、その痛みも今の私の目を覚まさせてはくれない。

湧き上がる感情は、抑えられなかった。



「・・・っ・・・・・く」


こみ上げる嗚咽をこらえながら、耐えきれずにその場にしゃがみこんだ。

かたく瞑った目から、堪えきれなかった涙がまぶたを押しのけて流れてくる。



無力でなにも持たない今の私にできることは、薄暗い場所でひとり、肩を震わせながら泣くことだけだった。



< 618 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop