旦那様は社長 *②巻*
ーーーーーー……
ーーーー……


もう忘れたはずなのに。

……何でこんなに動揺してるの?あたし。


どうして……やっと幸せを掴んだ今になって、あたしの前に現れるのよ?


封印していたはずの苦い記憶が次から次へと蘇ってきてーー…


…ーー頭が痛い。


あたしは軽く目眩がして、額を押さえながら目の前の敬吾から視線を落とした。


「佐倉……と言ったか?私の妻の顔に何かついているか?」


まるで、あたしと敬吾の間に漂う妙な空気を断ち切るかのように、社長が突然口を開いた。


“妻”

……社長は確かにあたしのことをそう言った。


敬吾は、あたしが社長の妻だと知って、どう思ったんだろう?


なぜかあたしは、顔を上げることができなかった。

後ろめたいことじゃないのに……敬吾と別れたおかげで今の幸せがあるんだって、見せつけてやれるチャンスなのに。


…ーーどうしてあたしが逃げてるんだろう。


その時、今まで沈黙を守っていた敬吾が口を開いた。


「妻?……そうですか。失礼しました。あまりにも私の婚約者に似ていたものですから」


「……?!」


“婚約者”って……どういう意味?


「……婚約者?」


社長が声色を変えて、敬吾の言葉に反応した。


まさか敬吾……


あたしとのこと、ここで喋るつもりーー…?



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