命のひきかえに(臓器移植編)(超短編小説)
数十年後。とある墓地。40代前半の、2人の夫婦がいる。妻が、墓の前で手を合わせている。

佑太の妹、博恵である。今日は、命日のようだ。博恵は、夫の顔に視線を振り向けた。

博恵「あなた、お身体の状態は、大丈夫なんですか。最近、仕事が忙しいんでしょう」

夫「なぜか、内臓だけは、すこぶる健康でね」

博恵「あなたは、良かったですね。移植を受けられて…」

夫「誰の臓器なのかは知らないけれど、大切に使わせてもらうよ」

そこへ、夫の秘書が現れた。
秘書「大黒厚生労働大臣、時間です…。明日は、臓器移植法改正案の議決日です」

陽子は、結果的には佑太の臓器移植を承諾したようだ。その事実は、夫や娘には伝えていなかった。家族にも内密に、移植が実施されたらしい。

3人は、佑太の墓石を後にするのであった。
○ ○

ロサンゼルス。病院。

年老いた敏子が、ベッドの上で横たわっている。人工透析を受けている。腎臓を患っている。敏子は、息子義雄への手紙を書いている。遺書のようだ。

主治医が付き添っている。義雄の主治医でもある。主治医は、全てを知っていた。佑太は自然死ではなかった。

敏子は、ドナーを探して調べた。佑太と義雄との生体が、合致したのだ。看護師である敏子が、殺したのだ。ばれずに殺すことは、簡単だった。


今、敏子の腎臓と合致しているのは、皮肉にも息子の義雄の腎臓だった。それは、自らの手で殺した、佑太の腎臓でもあった。

「息子さんの、生体腎蔵移植を希望しますか?」

「それだけは、できません…」
敏子は、臓器提供を拒んだ。

深夜、チューブを外して、敏子は自らの命を絶つことを決意するのであった。それが、佑太への謝罪であった。

他人の命とのひきかえに、自分の命を提供するのであった。
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