モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇
『君に言えなくて、隠していたことがある。』
捨てられた子犬のような目をした倉澤が震える声で話し始めた。
『裕子、絶対に怒らないで聞いて。
僕は・・・ 一度、結婚していたことがある。
子供も、いるんだ・・・』
裕子は驚いたが、同時に納得もした。
女にモテるであろう倉澤が、この歳で独り身であることの方が不思議なくらいなのだ。
そう考えると、安堵している自分がいた。
「そうだったんだね。 ・・・
別れた理由、聞いてもいい?」
優しく聞いてみる。
『その頃の僕は・・まだ若くて・・・ 仕事も始めたばかりで忙しく、彼女が・・・
育児ノイローゼになって・・・
僕が悪い。 男はお金を沢山稼がなきゃって、 焦って、それで・・・
小さい息子を捨てるなんて・・
僕は・・・最低なんだ。
幸せになってはいけない人間なんだ・・・・ 』
裕子は倉澤を抱きしめた。
「そっかそっか、直哉、話してくれてありがとう。
若い時だもん、いろいろあるよね。
私は大丈夫、大丈夫だから・・・奥さんと息子さんのこれからのこと、一緒に考えようね。」
倉澤は裕子の胸で震えながらしゃくり上げていた。
だが倉澤の目から、涙は流れてはいなかった。