獣闘記
堺龍太の父、敏彦は天才だった。

戦後生まれの柔道家として

初めて全日本選手権三連覇を成し遂げた。

そのまま十数年間勝ち続けた。


《堺の前に堺なし。堺の後に堺なし》

彼を称える言葉だった。

最高の賛辞だろう。

しかし、柔道家としてプロのリングにあがった初戦で、敗けた。

当時最強プロレスラーと言われた力皇が相手だった。

後に「引き分けの約束だった…」と敏彦は語ったが、世間には言い訳にしか聞こえなかった。

敗北後、父は表舞台から完全に消えた。


『柔道は総合格闘技より弱かった。』という周囲の雑音をかき消すように、様々な道場と手当たり次第に野試合を行なった。


連戦連勝。破竹の勢いで勝ち進む敏彦にいつしか妙な呼び名がついた。

「狂獣」。

こう呼ばれはじめた頃、堺龍太は生まれた。



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