硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
「では、日和さん、入学式で会いましょう」

私は、再び自分を見る彼の視線を、さりげなく見ないようにしながら、母の手前、微笑みを浮かべて軽く会釈を見せた。

「では、失礼します」

「えぇ、ごきげんよう」

母は、にこやかに彼を見る。

彼は、母に謙虚な姿勢で丁寧に一礼をすると、その場を去って行った。


『わぁ…やはり素敵ね。隼斗さん』
『えぇ。あの方なら、日和さんと釣り合いますね』
『日和さんのオーラに負けてないわぁ』
『えぇ、ほんと。あの二人なら、御似合いですね』

周りで同級生達が、囁いていた。

私は、ただ前を見据えて、車へと歩く。

【御似合い?…まさか…やめてよ………】

私は、ちっとも嬉しくなくて、『釣り合います』や『オーラに負けてないわ』の言葉を思い出していた。

【負けてない………もしかしたら、彼は、私に敵対心があるとか……私を見る時の、あの鋭い視線は……………考え過ぎ…かしら】

私は、考えるのをやめた。

それよりも、『オーラに』の言葉の方が気になりだしたりして…

【私にオーラがある?…ないわよ】

私は、一人、笑いそうになった。

「どうしたの?」

「え?」

「思いだし笑い?」

「ううん」

「そう」

母は、きょとんとしながら車に乗った。

母は、鋭い。
私の顔は、びっくりしていたに違いない。
びっくりした顔で、否定していたに違いない。

しかし、それ以上は尋ねない母に、胸をなでおろしながら、私は、車に乗ろうとした。

「あ、…こんにちは!」

背後から、勢いよく聞こえてきた声に反応して、私は、思わず振り返った。
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