硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

シャンパンタワー

日曜日の昼過ぎ、七海 龍星から電話があった。

彼から貰った携帯電話が鳴り、私は、ある日の事を思い出しながら、携帯電話を手に取る。

【ちゃんと、覚えてるか。俺がお前にあげた携帯は、俺とお揃いだ。番号を、他には教えるなよ。俺専用だ。俺が持ってるこっちは、お前専用だ】

いつも、私のことを、『日和ちゃん』や『君』という彼が、酔って電話をしてきた時、私のことを『お前』と言った日の事を。
そして、酔った彼を可愛いと思いながら、私は、電話に出た。

「もしもし」

『あ、俺』

「はい」

『ねぇ日和ちゃん。明日は祝日だから、学校は休みだよね』

「うん」

『門限は、何時だったっけ』

「高校生になって、八時になった」

『そっか。わかった。あのね、日和ちゃんに、見せたいものがあるんだ』

「見せたいもの?」

『うん。店に来て欲しいんだ。迎えに行くし、八時までに送る』

「なんだろう」

『それは、来てのお楽しみ』

「そうなんだぁ。なんだか、わくわくするな。わかった。行く」

『じゃあ、迎えに行く。今からでもいいけど、何時がいい』

「すぐに用意できる。今からでもいい」

『そっか。じゃあ、今から迎えに行く。着いたら、携帯にワンコールするよ。だから、家の中で待って。危ないから。鳴ってから出ておいで』

「はい」

『じゃあ、今から行くね』

「はい。あ!七海さん!」

『ん?どうした?』

「お前、でいいです」

『ん?』

「だから、私のこと」

『え、どうして?』

「だって、この間、七海さん、酔って電話してきた時、私のこと、お前って言ってたもの」

『え?マジ?ごめん』

「謝らなくていいんです。初めて言われたけど、七海さんは、その方が似合ってるから。だから、そうして下さい。いつも言い慣れてる喋り方の方がいいから」

『そっか』

「はい」

『じゃあ、そうするよ』

「はい」

私は、笑顔で返事をした。

『じゃ、後でね』

「はい」

私は、嬉しい気持ちで、電話を切った。

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