硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
「儷美子さん、
送ります」


七海は、
儷美子の後について声をかけた。


「有難う。
でも、いいわ」


儷美子は、
ニッコリと微笑む。


「あ、」

思い立った様に発した儷美子を
七海は、
どうしたのかと思いながら見つめる。


「もし乗ったら、
助手席?」


「え、…」


「冗談よ。

ホント正直なんだから」


儷美子は、
苦笑いとともに
ニヒルに微笑んだ。


「すいません…」



「リュウ」


「はい」


「私に言おうとしてることがあるでしょ」


「えっ、」


七海は、
儷美子の鋭さに驚いた。

図星だった…


七海にとって、
儷美子は大切な女性(ひと)。

儷美子には、
日和のことを
言おうと思っていた。


「ヤボなことは、
しないで。

リュウに似合わないから。

…貴方の口から、

他の女の名前は聞きたくないわ」



「……
…儷美子さんは、
俺のこと、

何でもお見通しだな…」


「もぅ…やだわねぇ…

でも、

貴方が愛したなんて、
珍しい…


愛してしまったのなら…仕方ないわね」


エレベーターの扉が開く。


「じゃあね、リュウ」

「はい…儷美子さん」


「リュウ」


「はい」


「貴方の幸せが、
私の幸せだから。

自分の心に素直に

恋して」


「……はい」


儷美子は、
見守る様に
七海に
そっと微笑む。



エレベーターは、
静かに
扉を閉じた…
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