「さよなら」も言わずに。

嫉妬から生まれた物。

手を振り、走ると

尚人はそれを優しい笑顔で見ていた。

温かい…

すごく温かい気持ちになる。

「尚人ぉ。どうしたの?!」

早口だったから、聞こえなかったのかな?

「ん?」って感じに首を傾げた。

手に一瞬締め付けを感じ、

ふと自分の手を見ると尚人が私の手を握っていた。

「え…!?」

驚いていると、尚人は私を引っ張って

家の中へと連れて行った。

「おじゃまします。」

玄関に入ったとき、そう言って

尚人の後について行った。

2階の1番西の端の部屋。

その部屋に入ったとき、爽やかなレモンミントの香りがした。

『何か、無償に雷霧と話したくなった』

顔が熱くなる。

胸の鼓動が速くなる。

「ありがと。」

素っ気無く返事を返したのは、恥ずかしさから。

ただの照れ隠し。

でも尚人は、私の返す言葉ひとつひとつに

笑顔で反応してくれる。

それが、すごく嬉しかった。
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