「さよなら」も言わずに。
涙が止まらなくなった。

手で涙を拭いてると、

ギュッて弘人が抱きしめた。

弘人の胸の中で、子供みたいに泣きじゃくる。

弘人の温もり。

尚人の温もりとは、全然違うんだね。

やんわりした尚人の温もりと、

力強い弘人の温もりは違ってた。

「雷霧……。
俺んとこ来いよ。」

耳元で囁かれる、弘人の声。

涙で濡れた顔で上を見上げると、

弘人の顔が見えた。

愛しく思えたんだ、弘人の顔が。

温もりが…。

自分からしたキスで気がついた。

私、どうしようもない人間だな―

「雷霧…。」

弘人からされたキスに、

弘人とだったら、ずっと笑って居られるかも…。

なんて思った。

それが例え、尚人を傷つけることだとしても

未熟な私は、自分のことしか

考えることが出来なかった。

尚人とは違う温もり。

尚人とは違う優しさ。

尚人とは違う香り。

全て…

全て、尚人と弘人は全然違ってたんだけど

どうしようもない私は

弘人に居場所を求めた。
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