今日から執事


玄関から伸びる赤絨毯の両脇に一列に使用人達が並んで立っている光景は異様で、真斗はただ圧倒されるばかりであった。

何とかチーフに見つからずに列に侵入することが出来たことに胸を撫で下ろす二人。


その時玄関の扉の向こうで、車のドアが閉まる音がした。


やっとお出ましか。


先刻からは想像出来ない程、自信に満ちた表情をしている真斗は内心、興奮していた。


それは純粋にどんな人物か気になっているからであり、同時に武者震いのようなものも感じていた。


それは使用人達も同じのようで、今までざわついていた玄関は今や静寂が支配している。


使用人一人一人が堂々としていて瞳は真剣そのもの。
けれどその物腰はどこまでも優雅だった。

隣にいる神嵜も今までとは比較にならないくらい鋭い視線で扉を見つめている。


真斗が本当の意味でこの仕事を理解したのは、このときだったのかも知れない。

自分の心臓が耳元にあるのではないかと思える程、真斗の鼓動は鮮明に響いている。


暫くの沈黙のあと、ガチャリと金属の触れ合う音がして、ゆっくりと扉が開けられた。

少しの隙間から差し込む光が真斗の顔を明るく照らす。

その時の真斗の鼓動はもはや早鐘だった。




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